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トンネル独壇場

派遣に関する記事 051110-2

新卒派遣で正社員 成約8割本命会社に入る就職術
(AERA:2005年9月12日号)

 就職戦線は「秋の陣」を迎えているが、学生にとって抜け道がある。まず派遣社員として働いてから、正社員になれるのが、新卒派遣。企業と学生の「お見合い」で、希望の会社への道が開ける制度の実態は……。

  ◇      ◇

 伊藤忠グループの企業で働く2人の一般職の女性社員。就職活動中の2年前、大手商社系の正規の求人では、事務系一般職の枠はほとんどなかったのにちゃんと正社員として就職している。コネではない。理由は「新卒派遣」だ。

 03年3月に白百合女子大を卒業した三上裕子さんと実践女子大を卒業したメグさんは、2人とも就職活動時は商社希望だったが、募集はなかった。あきらめかけたときに2人が知ったのが、伊藤忠グループに全体の70%の派遣社員を送り出す派遣会社キャプランだった。

 約16倍の競争率をくぐり抜けて内定。三上さんは希望する営業アシスタントとして伊藤忠丸紅テクノスチールに、メグさんは残業が少ないという条件と適性をふまえて、伊藤忠の財務を取り扱う現在の会社に紹介された。

 「経理や財務に関心はなかったけれど、派遣前後の研修で自信を持てた。派遣はちょっと、というイメージがありましたが、結婚しても子供ができても働ける職場に出会えました」(メグさん)

 2人とも3カ月の派遣期間中も飲み会にも誘われるなど、正社員との垣根を感じることはまったくなかった。2年後の今年4月に担当部署の責任者に意思確認をされて正規採用になった。

 「こんな手もあるのかと思いました。最初は派遣というだけで抵抗があったけど、働き始めてからは忘れていました」(三上さん)

 正社員、契約社員採用を前提に派遣社員として働く派遣が、新卒者に浸透しつつある。


 ●新卒派遣は全体の2割

 原則として半年間を限度に、企業側は人材の能力と適性を判断。派遣される側は仕事の内容と職場環境を見極めた上で就職できる仕組みだ。一度、派遣会社に登録すれば、派遣先になじめない場合、次の職場を紹介してもらえる。

 04年3月の派遣法改正で派遣前にも採用を前提にした面接が認められるようになった。ここ数年は大手銀行などの金融機関にも、新卒派遣が広がり、実労働者数は、05年度1月から3月までの月平均で、約2300人(社団法人日本人材派遣協会調べ)。新卒派遣は、派遣全体の2割に上ると見られる。

 日本人材派遣協会の調査では、派遣全体の成約率は3割弱に対して新卒派遣の場合は約8割と高い。その背景には、入社試験に負けない厳しい選考がある。各社ともSPIなどの適性検査、筆記、面接など3次、4次の選考を実施。そこを通過した後、数回のカウンセリングを受け、適性と希望に沿った企業を紹介される。人材派遣会社リクルートスタッフィングの場合、内定率は約2割の狭き門だ。

 冒頭の商社勤務の2人はこの制度を戦略的に生かしたが、内定先に納得できない学生が、派遣に飛び込むケースも増えている。

 「ディスカッションのサークルの部長をしていたので、統率力には自信がある。人の話を聞き、サポートする会社が希望です」

 「あなたには一度思いこむと視野が狭くなって、周囲の人がついていけなくなる面が見られますね。人をサポートする仕事は人材関係だけではありませんよ」

 法政大学4年の佐々木亮太さんのカウンセリング風景だ。


 ●「自分発見」する学生

 中堅の電機メーカーに内定したが、希望する人材会社をあきらめられず、6月半ばに派遣会社に登録した。

 紹介されたのは、リクルートHRマーケティングと、外資系生命保険会社の営業事務職。前者は人材会社なので希望通りだが、適性をふまえて紹介された保険会社のプランナーのサポート職は、初めて耳にする職種だ。派遣会社の試験で新たな自分の可能性に気がついたというわけだ。

 介護会社に内定している青山学院大4年のトモミさんは、派遣会社のカウンセリングで「自分発見」をした。内定先は大量採用、大量退社の噂がある。そこで腰が引けてしまうのは、本当に自分でやりたいことではない証拠だと思い、派遣会社の門を叩いた。

 「一人で就職活動をしていると、客観的になれない。派遣先が合わなければ次を紹介してくれるという仕組みは、自分にあっている」

 リクルートスタッフィングの新卒担当カウンセラー高橋絵美さんは、

 「派遣登録に来る学生は、視野が狭い場合がある。それを広げてあげるのが、私たちの役割です」

 と話す。

 派遣会社には質の高い新卒を送り込むことで、通常の派遣の枠を確保、拡大する狙いがある。派遣される側が中核社員になった時に「出身派遣会社」を優遇してくれるという期待もある。


 ●ミスマッチ少ない

 受け入れる企業側も積極的だ。ある大手銀行の人事担当者が、思惑を明かす。

 「ここ数年で増加傾向にあり、現在は事務系の職員を中心に80人を採用しています。半年間の助走期間があるのでミスマッチが少ないという利点もある。実際に人材確保に苦しむ中堅銀行は、採用枠の主体に据えているところも出てきている。また、募集、採用にかかるコスト削減のメリットが大きいのも魅力なんです」

 新卒派遣を即戦力に位置づけている会社がある。外資系大手保険会社AIU、アメリカンホームなどの保険金支払いの調査事務をする日本保険損害査定(JACO)という会社だ。

 保険会社の正社員のサポートのもと、旅行事故、国内事故などの担当部署で、調査対応の連絡業務を派遣で採用された契約社員が行っている。

 そのうちの一人、菅原舞さん(26)は、ベネッセなど教育系出版社への就職を目指していたが、求人誌で新卒派遣を知った。

 派遣会社パソナに3度の面接を経て内定。紹介されたJACOで、9カ月の派遣期間を経て2年前から契約社員として働いている。

 「外資系は古風な上下関係もないので、働きやすい。職場の雰囲気を見られたのがよかったですね」

 JACOの契約社員には、AIU、アメリカンホームなどの保険会社の総合職にキャリアアップする道も開かれており、この2年間で10人が合格している。


 ●職場選びに迷う危険も

 AIUで人事担当の経験もあるJACOの高倉俊郎ARC室長が話す。

 「この制度は派遣で業務を体験してもらった上で採用するため、職場でのミスマッチがない。この2年間で100人以上を紹介予定派遣で迎えていますが、9割近くの人材を採用しています」

 派遣が就職率にカウントされない大学側は、慎重だ。

 「職種の希望がはっきりとしている子はともかく、中途半端な気持ちの学生は振り回されてしまう」

 と東洋大学キャリア形成支援センターの安岡みち子部長は危惧する。

 その他にも、

 「派遣を入り口にすると、職歴の上で実績にならない。卒業式の前日まで、正社員のチャンスはあるという指導をしている」(立教大)

 といった声が多い。

 この4月、商社とメーカーに新卒派遣で進んだ卒業生を対象に「追跡調査をしていきたい」というフェリス女学院大のように、各大学とも、今後実態を把握していく構えだ。

 派遣トラブルホットラインを設ける労働組合東京ユニオンには2年前、

 「新卒派遣で採用されずに就職の入り口でつまずき、その後は派遣人生になってしまった」

 という匿名のメールが届いた。

 「通常の派遣と違い、新卒の場合、直接雇用の際にトラブルになった段階で訴えても、本人の得にならない。問題が見えにくい構造になっている」

 と関根秀一郎書記長。一度失敗してもチャンスがあるだけに、職場選びに迷い続けるうちにフリーター、ニート化する危険もある。

 とはいえ、新卒、第2新卒を対象にした派遣が、大学側にも無視できない制度になってきていることは事実。日本人材派遣協会の河邊彰男事務局次長は、こう指摘する。

 「業種やグループ企業に強い派遣会社を学生が選別する時代。当初は派遣会社も大学側に売り込んでいましたが、最近はネットを使って学生に直接アピールしている。派遣会社が採用代行業的な役割を担いつつある現状に、大学も目を向けざるを得ないのではないでしょうか」(文中カタカナ名は仮名)

 (AERA編集部・伊東武彦)
by duboraya | 2005-11-10 01:34 | 散策報告
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